「膳所光悦」茶碗 膳所焼美術館

「膳所光悦」茶碗 膳所焼美術館

 膳所焼美術館は膳所焼の茶陶作品などを収蔵・展示する施設で、1987年に財団法人(現・公益財団法人)として設立されました。当館の所蔵品は、江戸時代初期の古膳所焼と大正8年(1919)に初代岩崎健三が日本画家、山元春挙とともに復興した膳所焼を中心に、滋賀にゆかりある梅林焼、姥ヶ餅(うばがもち)焼などの茶道具です。
 膳所焼は、江戸時代初期の武将で茶人としても有名な小堀遠州(1579~1647年)の教えを受けた膳所藩主、菅沼定芳(さだよし)(1621~34年在任)が、現在の相模川河口に窯を開いたのが始まりと言われています。菅沼定芳転封後の藩主石川忠総(ただふさ)の時代にかけて、遠州の支援を受けた膳所焼は、将軍徳川家光への献茶に用いられるなど、茶器として天下にその名が知られることになりました。
 今回紹介するのは、家光への献茶に用いられたであろうと言われている「膳所光悦(ぜぜこうえつ)」茶碗(ちゃわん)です。現在まで伝世するものは2碗しかなく、2000年にアメリカのフィラデルフィア美術館で、光悦展が開催された時にも出品した名品です。遠州が寛永13(1636)年、将軍家光を品川御殿に迎えての茶会に、本阿弥光悦(1558~1637年)に依頼して膳所焼の窯で焼かせた茶碗であると伝わっています。

 硬く焼きしまった茶碗(低火度焼成の楽焼ではない)です。無数の繊細な貫入が入った乳白色の肌合いが柔らかさと温かさをたたえ、あたかも白楽茶碗のようにも見えますが、この茶碗を手に取った瞬間、一変します。見た目よりも大きく、掌にずっしりとくいこむ重量感さえあります。土は白色細粒土で滑らかではありますが、硬質で全体の形は、光悦の球形を思わせる優しい形ではなく、長四角に成形され、胴の一部が膨らんでいて、はちきれそうな力を感じます。また見込みは全体に平らで、側面からは全く想像がつきません。何よりも高台が特徴的です。やや高めで外から内に向かって切り込むように削られています。よく見ると高台が茶碗の真ん中に付いていないのにもかかわらず、真っ直ぐ立っているという、とても不思議な茶碗です。
 現在当館では、この「膳所光悦」茶碗の他に、光悦筆・俵屋宗達下絵の短冊、色紙、料紙の軸も同時に展示しています。また光悦を意識して制作したと見受けられる、当館の創立者である二代目岩崎新定(しんじょう)(1913~2009年)の卒寿に手びねりした茶碗も必見です。

 また茶道文化の普及を目的として、春と秋に茶会を開催しています。通常はガラス越しで見る膳所焼の茶道具を、実際に使用しての茶会です。もちろんこの「膳所光悦」茶碗も他ではありません。膳所焼を見て触れて、先人たちの息吹を感じてみませんか。

膳所焼美術館

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