商いも農業も苦乗り越え 東近江市近江商人博物館・中路融人記念館

商いも農業も苦乗り越え 東近江市近江商人博物館・中路融人記念館
 東近江市近江商人博物館・中路融人記念館は近江商人のふるさとである東近江市五個荘地区にあります。近江商人とは、近江国に本拠地を置いて他国稼ぎをした商人の総称です。彼らの商いの精神を表した「三方よし」(売り手によし、買い手によし、世間によし)という言葉は、聞いたことがある方も多いでしょう。

 近江商人は、五個荘だけでなく滋賀県内の各地から輩出しましたが、出身地ごとにさまざまな特徴があります。近隣の近江八幡や日野は城下町として栄え、元々商業がさかんな地域でしたが、五個荘は農村地帯で、農業の合間に商いを始めたとされています。そのため、五個荘の商家には農業に関係する資料も多数伝わっています。今回はその一つである「四季農耕図」を紹介します。
 「四季農耕図」は、一年間の米作りの様子を描いた屏風(びょうぶ)です。田を耕し苗を植え、稲刈りをして米を蔵に収めるまでの過程が描かれています。人々は様々な農具を用いて作業しており、当時の様子がよく分かります。いくつかのシーンを見ていきましょう。
 まず、右隻右下から春の田起こしが始まります。田んぼの土を耕し、肥料を混ぜることで土を豊かにする作業です。ここでは、牛にカラスキを引かせて耕しています。
 大勢が協力して田植えを済ませると、夏はひたすら水の管理が続きます。「水見半作」という言葉があるように、米作りには水の管理が欠かせません。水の汲(く)み入れにはジャグルマや竜骨車といった道具が用いられました。屏風には足で羽根を踏んで回すジャグルマが描かれています。

 秋になると稲穂が実り、いよいよ収穫です。鎌で一株ずつ刈り取った稲は乾燥させた後、穂先から籾殻(もみがら)が付いた米(籾)を外し、さらに籾殻を取る作業(脱穀)が必要です。筵(むしろ)の上に稲を置き、唐竿(からさお)という長い棒で叩くと、稲から籾が外れます。その後、籾摺臼(もみすりうす)に籾を入れて籾殻をとっていきます。こうしてできるのが玄米です。
さらに、脱穀の際に砕けた米や籾殻などの不純物から玄米を選別する作業が必要です。屏風では、箕(み)という道具を使ってふるいながら選別をしています。
 現在、これらの作業のほとんどが機械化されていますが、昔はこのように多くの時間と労力が必要でした。この屏風は、元は五個荘地区の商家にあったもので、農業を生活の根本とした五個荘商人の精神を忘れないよう、家宝として大切にしていたと伝わっています。商いも農業も、苦労を乗り越えた先に良いことがあると身を奮い立たせていたのかもしれません。
 「四季農耕図」は、現在開催中の企画展「学芸員のイチオシ展vol.1」で展示中です。ここで紹介したカラスキやジャグルマ、鍬(くわ)などの農具とともに展示しており、当時の農作業の様子がより身近に伝わってきます。一部の農具は触れることもできるので、屏風の中の人々の気分を味わってください。

東近江市近江商人博物館・中路融人記念館 学芸員 福井瞳

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