木造広目天立像【滋賀県指定有形文化財】栗東歴史民俗博物館

「栗東の歴史と民俗」
 栗東インターチェンジから車で5分、栗東市立図書館や栗東自然観察の森など、栗東市の文化施設が集まる一帯に、1990年に開館した栗東歴史民俗博物館。開館以来35年にわたって、「栗東の歴史と民俗」をメインテーマとする地域の博物館として、栗東の歴史・文化の魅力を発信しています。特に、金勝山(こん、ぜ、やま)を中心とする宗教文化については、ロビー正面のシンボル展示「狛坂磨崖仏(こま、さか、ま、がい、ぶつ)(国指定史跡)」(レプリカ)や、開館記念展として「栗東の宗教文化」を開催したこと象徴するように、積極的に紹介してきました。今回は、栗東歴史民俗博物館への寄託資料の中から、栗東の地に根付いた宗教文化を物語る“名品”を紹介します。
 2008年の8月、当時の館長から「今度、大通寺(だい、つう、じ)さんがお参りに来られるから、ご案内して」と指示がありました。その年に栗東歴史民俗博物館に就職したばかりだった私は、「博物館にお参りに来られるとはどういうことなのか」と不思議に思ったことを覚えています。
 大通寺とは、金勝寺(こん、しょう、じ)に登っていく山道の登り口付近に位置する栗東市荒張(あら、はり)の走井(はしり)という集落にかつてあった小堂で、本尊として木造広目天立像(もく、ぞう、こう、もく、てん、りゅう、ぞう)を祀っていました。もともとは四天王のうちの1躯(く)であったと考えられますが、大通寺に四天王が揃っていたのか、あるいは同じような小堂が他にもあって、それぞれに1躯ずつ置かれていたのかなど、今となっては詳細を知る術がありません。
 平安時代後期の作であるこの仏像は、滋賀県指定有形文化財にも指定される優品で、栗東歴史民俗博物館の開館記念展「栗東の宗教文化」にも出品されたのを機に寄託され、現在に至っています。大通寺の檀家は少なく、数軒が「大通寺保存会」を組織して小堂や仏像を守り伝えていましたが、保管上の安全面などに考慮して、仏像を博物館へ寄託することとなったのです。
 一般的に博物館では、寄託資料を所蔵資料に準ずるものとして扱い保管・展示します。栗東歴史民俗博物館でも、大通寺の木造広目天立像を保管するとともに、第1展示室の通史展示「栗東の歴史と民俗」を中心に、折に触れて展示しています。一方、大通寺保存会では、仏像へのお参りのため、お盆や春・秋のお彼岸などの時期に博物館を訪れてきました。大通寺保存会のお参りに接することは、学芸員をはじめとする職員にとって、普段収蔵資料として見ている仏像が信仰の対象であることを実感できる貴重な機会となっています。
 さらに、このような栗東歴史民俗博物館と大通寺保存会の関わりは、資料の収蔵・展示に止まることなく、長い歴史の中で受け継がれてきた人々の思いや守り伝えられてきた地域の文化に対して、博物館が大きな役割を果たしている事例と言うことができるでしょう。

栗東歴史民俗博物館 係長(学芸員) 中川 敦之

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