樂直入の茶碗と蓋置 佐川美術館
佐川美術館は佐川急便株式会社の創業40周年記念事業の一環として、1998年に琵琶湖をのぞむ守山に開館しました。水庭に浮かぶようにたたずむ建物は切妻造の大きな屋根が特徴で、四季のうつろいの中で周りの自然と調和したさまざまな美しい表情を見せてくれます。当館では日本画家の平山郁夫、彫刻家の佐藤忠良(ちゅう、りょう)、陶芸家の樂直入(らく、じき、にゅう)の作品を常時展示しており、季節ごとにバラエティー豊かな展覧会を開催しています。今回はその中から樂直入の作品をクローズアップしてご紹介します。
樂直入は、京都で450年以上続く樂家の十五代目で、伝統を重んじつつ常に斬新な作品を生み出し続けています。作品を展示している樂吉左衞門(きち、ざ、え、もん)館は、直入自身が設計創案・監修したユニークな展示空間として作品と併せて高い評価を受けており、現在「茶陶の美」をテーマに展覧会を開催中です。本展は、実用と美しさを兼ね備える茶陶(茶の湯に使用する陶器のこと)に焦点を当て、茶碗(ちゃ、わん)や茶入の他にも実際に茶会で使用される水指や花入などの茶道具を展示しています。作品の数々から、実用の中にみられる樂焼の美意識を感じ取っていただくことがコンセプトです。
今回はその中から茶碗と蓋置(ふた、おき)を紹介します。
茶会において重要な道具のひとつといえば茶碗。①の作品は赤樂茶碗と呼ばれるもので、樂焼茶碗の中でも伝統的に焼かれてきた種類の茶碗です。赤樂茶碗の特徴である、窯で焼いた際に茶碗の表面が黒味を帯びる窯変(よう、へん)と、茶碗全体に細かく入った貫入と呼ばれるヒビがよく表れている本作は、平たい見た目から平茶碗とも呼ばれます。口径が広く茶碗の内側全体が浅い形になっており、抹茶の熱を適度に逃してくれることから、茶会での涼しさの演出や客人への気配りとして主に今のような暑い季節に使用されます。
蓋置は釜の蓋や柄杓を置く際に用います。②の作品の魅力は釉薬(ゆうやく)にあります。土を手でこねて形成し、しっかりと乾かしてから全体を釉薬でコーティングして焼き上げることで、強度や耐水性が高まります。また釉薬には様々な色や種類があり、装飾性を高める役割も担っています。樂家では、釉薬の作り方について先代から教えられることはなく、歴代が自身で研究を行い新たな釉薬を作り上げます。本作に用いられている皪釉(れき、ゆう)は直入が自作し名付けた釉薬で、焼成すると美しい乳白色を呈し、柔らかな窯変が表れる特徴があります。
このように茶道具一つをとっても、直入独自の技法や創造性を見ることができます。ご来館の際はぜひ、直入が創案した展示空間で直入が創る茶陶の世界をお楽しみください。
樂吉左衛門館では作品鑑賞の他にも、直入が設計創案した茶室の見学や、実際に樂茶碗で抹茶を召し上がっていただく呈茶といったイベントを予約制で開催しています。佐川美術館で茶の湯の世界を体験してみませんか?みなさまのご参加をお待ちしています。
佐川美術館 学芸員 栗田頌子