市指定文化財「千歳集」湖南市東海道石部宿歴史民俗資料館湖南市東海道石部宿歴史民俗資料館
湖南市東海道石部宿歴史民俗資料館は、東海道五十三次のうち51番目の宿場町として栄えた石部宿(いしべしゅく)の当時の生活文化遺産を後世に伝えることを目的に、1985年4月に雨山文化運動公園内に開館しました。農家や旅籠(はたご)など江戸時代の宿場の町並みを再現した「石部宿場の里」と、宿場町や東海道の関連資料を収蔵・展示する「東海道歴史資料館」の二つのゾーンに分かれています。
さて、今回は当館に展示されている市指定文化財「千歳集(せんざいしゅう)」についてご紹介します。 千歳集は江戸時代中期~末期の文人たちが「ウツクシマツ」を詠んだ句をまとめた吟詠集です。作者の奥村志宇(しう)は湖南市平松の代官・奥村亜渓(あけい)の妻で、夫婦そろって俳諧や詩歌を好む風雅人でした。奥村夫妻の住居や「平松のウツクシマツ自生地」には多くの俳人が訪れ、彼らが残した詩句を志宇が約30年間にわたってまとめたものが「千歳集」です。また、ともに展示している志宇自筆の俳句を書き付けた襖絵(ふすまえ)(こちらも市指定文化財)についても、作者名は「う津くし松 志宇」と書かれ、ウツクシマツへの愛着を伺い知ることができます。
あまたの句の題材となり、奥村夫妻に至っては自らの住居を美松亭と称するなど、多くの人に愛されたウツクシマツ。平松の美松山に群生するアカマツの一種ですが、根本から傘状に枝分かれして広がる美しい形が特徴的な珍しい松で、平安時代には神の使いが変化してウツクシマツになったという伝説も残されています。東海道に近いこともあり、浮世絵にも描かれるなど名所として知られていました。この美松山はウツクシマツが自生・天然更新される国内唯一の場所であり、「平松のウツクシマツ自生地」として国指定天然記念物になっています。
ウツクシマツ自生地には現在も80本以上のウツクシマツが群生し、遊歩道およびグラウンドから観賞できます。美しい名所に心を動かされた文人たちの軌跡や、現在も残る東海道の名所をぜひお楽しみください。
湖南市環境経済部商工観光労政課文化財振興係 主事(技師) 守武 弘太郎