滋賀県博物館協議会・草津市主催シンポジウム簡易報告

滋賀県博物館協議会・草津市主催シンポジウム簡易報告

A. タイトル:「道の国・近江の魅力発信!!〜街道文化を今に伝える博物館〜」
      パネリスト
        大角 淳子 氏 大角家 第25代当主
        (国指定重要文化財「大角家」住宅 旧和中散本舗)
        駒井 文恵 氏 甲賀市土山歴史民俗資料館 係長
        谷口 徹  氏 米原市柏原宿歴史館 館長
      聞き手
        八杉 淳    草津市立草津宿街道交流館・史跡草津宿本陣 館長

B. 日時:平成30年10月28日(日)14:00〜15:30 
C. 会場:史跡草津宿本陣 西広間
D. 参加者 一般53名 *事前申込
       加盟館参加者7館8名

E. 概要:
 滋賀県というと「琵琶湖」、「仏教美術」というイメージを持つ方は多いと思いますが、「道の国・近江」と聞いてピンと来る人がどの位いらっしゃるでしょうか。実はここ滋賀県は、京都に隣接し、東海道、中山道、北國街道といった主要街道が交わって、人や物が行き交う賑やかな街道文化が発達した地域なのです。このシンポジウムでは、当時の東海道と中山道の宿場町(草津・栗東・水口・土山・柏原)を管轄する4つの博物館からパネリストが集まり、街道文化の魅力や現在行っている取り組みや課題、また展望などを発表し、それをどのように発信し、地域おこしや集客につなげてゆくかが語り合われました。

 はじめに草津宿の八杉館長より、ここは東海道と中山道が合流する地であり、会場であるこの本陣は、東海道に残る唯一かつ最大級の本陣で、宿帳にあたる「大福帳」などの貴重な資料が残り、国の史跡に指定されていること、明治以後は役所が置かれるなど、使用され続けたことが保存につながっている点から、現在、椅子席や空調を設け、落語やかるた大会、ワークショップの場として、現代に合わせた活用をしていることなどが発表されました。
 次いで、草津宿と石部宿の中間の栗東に位置し、間の宿(あいのしゅく)の休憩所として使用されてきた建物、国指定重要文化財「大角家」住宅の当主・大角氏より、市民や旅行者の見学などの要望に応えたいという気持ちは強いが、個人経営の難しさや見学者のマナーの問題などに苦慮していること、一般公開よりも文化財や文書などの情報の部分では協力できる点があるのでは、との報告がありました。
 甲賀市の駒井係長は、職員が少なく土山と水口というふたつの宿場町と甲南町を担当していて大変な反面、3地域をつなげた活動ができないかと考えている、と逆転の発想を紹介。また、地域の方の協力や観光ボランティアの活躍がなくてはならない現状を報告されました。
 柏原宿の谷口館長は、地域に古い家や什器類が比較的良く残っていて、「街並み全体が博物館」という柏原宿の特色を紹介し、そのお手入れ法や修理法を地元の方を集めて指導したり、滋賀大学による文書の調査へ協力するなど、文化財を次世代へつなげてゆく事例をお話しいただきました。
 そして、テーマである「魅力の発信」について話す中で、近年ウォーキングやサイクリングの人気から旧街道を訪れる人が増えつつあるが、入館に結びつかないことなどが話題となり、柏原宿での「地元の味」を提供して足を止める事例紹介の他、スタンプラリーや街道をテーマとした出版との連携、博物館どうしの作品の貸し借りや共通テーマの展示などを来館につなげるアイデアが出されました。まとめとして、このような宿場間、博物館どうしの連携により大きな流れを作ることで、近江の魅力の一つとしての「街道」を、もっともっとアピールできるのではとの提言がなされました。

 私には、恥ずかしながら「道の国・近江」ということが頭になかったのですが、今回のシンポジウムに参加し、これは大変重要な文化遺産であり観光資産であると感じました。それも基本的には博物館に収蔵されるものではなく、活用しながら現地で保存されるもので、いま手を打たないと永遠に失われる可能性があります。幸い近年は「ビワイチ」の流行や、いわゆる観光地化していない観光地に人が流れ始めていると聞きますので、京都に近いという立地を利用した、ウォーキングやサイクリングなどの体験型の集客が見込める可能性を感じました。まだまだ発信が遅れている現状だと思いますので、滋賀県博物館協議会としても、館どうしの連携のサポート、またホームページを活用する方法で関わって行けるのではないでしょうか。

(MIHO MUSEUM 主任学芸員 桑原 康郎)

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