チャレンジ精神が生んだ世界初の小形ディーゼルエンジン (横形水冷ディーゼルエンジンHB形)
ヤンマーミュージアムは、2012年に迎えた創業100周年記念事業の一環として、2013年に創業者・山岡孫吉(以下「孫吉」という)の生誕地である滋賀県長浜市に設立した企業ミュージアムです。
その後、2019年に「やってみよう!わくわく未来チャレンジ」を新たなコンセプトとし、未来を担う子供たちがわくわくするような体験を通じてチャレンジ精神を育める「チャレンジミュージアム」としてリニューアルしました。
今回は、館内2Fに展示されているヤンマー歴代エンジンの中でも重要な1台、横形水冷ディーゼルエンジン「HB形」をご紹介します。
1888年に伊香郡南富永村(現長浜市高月町)の貧しい農家で生を受けた孫吉は「農業における重労働をもっと楽にし、農民の暮らしをより豊かにしたい」と常々考えていました。
母に懇願し16歳で大阪に奉公に出た孫吉は、ガスエンジン、石油エンジンの商売を経て、新たなヒントを得るために1932年に訪れたドイツの展覧会で、ルドルフ・ディーゼル博士が発明したディーゼルエンジンと出会います。そのエンジンは高さ3.2m、重さ5.8tもあり普及させるには大きすぎました。ディーゼルエンジンは安全で燃料費も安く済む為、なんとか農業で実用化したいと考え小形ディーゼルエンジンを探し回りますが、当時まだそのようなエンジンは存在していませんでした。
日本に帰った孫吉は、すぐに若手技術者を中心に研究チームを作り小形ディーゼルエンジンの開発を始めますが、完成した試作エンジンは黒煙を上げるだけで使い物にならず失敗の連続でした。当時世界中の多くのメーカーがディーゼルエンジンの小形化に挑戦し、みな失敗に終わっていました。
そして開発を始めて1年5ヶ月後、ついに世界初の小形ディーゼルエンジンを完成させます。孫吉は技術者たちと一緒に涙を流し喜びあいました。完成したエンジンは高さ95cm、重さ500㎏、最大出力5馬力の横形水冷タイプで、「HB形」と名づけられました。世界初の小形ディーゼルエンジンが生まれたその日は1933年12月23日、現在の上皇陛下ご誕生の日でもありました。
孫吉が開発した小形ディーゼルエンジンは、農業用の籾摺り機やかんがい用ポンプ駆動用等に幅広く活用され、全国に広がっていきました。
HB形エンジンは2007年に一般社団法人日本機械学会により「機械遺産」に、また2009年には経済産業省より「近代化産業遺産」に認定され、更に2012年には国立科学博物館の重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されており、関係各機関より日本の産業機械分野における技術的価値が認められています。
「人々の労働の負担を機械の力で軽減したい」という孫吉の強い想いが、挑戦し続ける原動力となり、世界初となるディーゼルエンジンの小形化を成功させました。
諦めずに挑戦し続ける創業者の想いは、ヤンマーのブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE -テクノロジーで、新しい豊かさへ。-」として現在も受け継がれています。
ヤンマーミュージアム