当館を題材に詠んだ歌を刻んだ歌碑 滋賀県立琵琶湖文化館

当館を題材に詠んだ歌を刻んだ歌碑


 昭和36年(1961)3月20日、滋賀県立琵琶湖文化館は、滋賀県の歴史や美術を総合的に紹介する滋賀県最初の公立博物館として開館しました。博物館であると同時に、水族館、植物園、プール、レストランなどを擁す総合レジャー施設として、老若男女の多くの人々でにぎわいました。
 今回ご紹介するのは、開館にあたり当館を題材に詠んだ歌を刻んだ歌碑です。琵琶湖上に建てられた当館の前池(湖中)にあります。
 歌の作者は、脚本家や小説家など様々な面を持つ歌人・吉井勇(1886~1960)です。吉井は文芸誌「明星」での活動を経て、北原白秋、石井柏亭、森田恒友らと「パンの会」を結成、これが耽美派の拠点となりました。また森鴎外の監修を得て石川啄木、平野万里とともに「スバル」を創刊し、その後小説や戯曲などを精力的に発表しました。「命短し、恋せよ、少女(おとめ)」の歌詞が有名な「ゴンドラの唄」をご存知の方も多いのではないでしょうか。
 当館の歌碑に刻まれた歌は、「うつしよの夢をうつつに見せしめぬ琵琶湖のうへにうかぶ美の城」。開館の前年に逝去した吉井は当館を目にすることはありませんでしたが、新たな美の殿堂となる当館を、「ここはこの世の夢を、現実に見せてくれる、琵琶湖の上に浮かんでいる美の城」と詠みました。かつて全国的にも博物館・美術館の数が少なかった時代、お城のような雄大な建物の博物館は、訪れる人々を驚嘆させたことでしょう。その感動が現れた歌は、当館を象徴する名品と言えます。

 当館周辺の琵琶湖は平成初期に埋め立てられ、昭和に開館した時の琵琶湖岸の姿とは大きく変わっているものの、この歌碑は変わらずに前池内にあり、いつでもご覧いただけます。ときに水鳥や亀が歌碑の上や台座で日なたぼっこする光景は、なんだか癒されますよ。また、歌碑の台座上面が琵琶湖の水位ゼロのあたりなので、日々の水位の目安にもなります。
 さて、当館は老朽化のため2008年度から休館しておりますが、27年度には大津市浜大津に場所を変え、建物も一新して開館する予定です。この新しい琵琶湖文化館は、文化財の収蔵・展示といった従来の博物館の機能に加え、「地域の文化財のサポートセンター」の機能と「文化観光拠点となるビジターセンター」の機能を備え、近江の文化財を保存・継承・活用・発信する中核拠点となることを目指しています。建物は、船をイメージした姿になる予定です。
 この新しい琵琶湖文化館も、引き続き県民の皆様に親しんでいただける博物館になることを目標に、計画を進めてまいります。どうかご支援・ご協力のほどお願いします。

県立琵琶湖文化館主任学芸員 田澤梓

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