「桜田門外」も記す人事情報 彦根城博物館

井伊家文書の代表的資料「侍中由緒帳」

 彦根城博物館は、1987年に彦根市の市制50周年を記念して開館しました。建物は、彦根藩主の執務兼生活空間であった彦根城表御殿を復元したものです。代々彦根藩主をつとめた井伊家に伝来した美術工芸品や古文書などを収蔵・展示しています。

 井伊家に伝来した古文書のうち、廃藩の1871年以前のものである2万7800件が「彦根藩井伊家文書」として一括して国の重要文化財に指定されています。その内訳は、幕末に大老として活躍した井伊直弼の書状をはじめとする井伊家の歴代当主に関する古文書や、彦根藩の藩政に関わる古文書など、多岐にわたります。伝存例の少ない譜代大名家の文書であることに加え、幕末の政治・外交を読み解く上で貴重な資料であることが高く評価され、指定に至りました。

 さて、今回ご紹介する名品は「彦根藩井伊家文書」の代表的な資料である「侍中由緒帳(さむらいじゅうゆいしょちょう)」です。井伊家4代直興(なおおき)(1656~1717年)の命により、1691年から編纂(へんさん)が開始された彦根藩士の履歴書で、当館には80冊が伝来しています。各藩士が提出した由緒書をもとに、藩士を監督する目付役によって1871年の廃藩まで書き継がれ、人事評価の際の基本台帳としても機能しました。

 「侍中由緒帳」からは、藩士の俸禄(ほうろく)の変遷や役職の任免、賞罰など、彦根藩士に関する基本情報を知ることができます。藩士大久保孫左衛門家の履歴を例にとって見てみましょう。写真は、6代目員好(かずよし)(章男(あやお))の代の部分です。1行目から4行目にかけて、員好が直弼の側役(藩主の政務を補佐する役職)や愛麿(よしまろ)(直弼の息男、のちの直憲)の「附人(つきびと)」に任じられたことが記されており、特に直弼やその家族の側近くに仕えた近臣であったことがわかります。また、5行目から7行目にかけて、桜田門外の変で直弼が暗殺された60年3月3日に国元の家老へ報告を行う御用を務め、変の第一報を彦根にもたらしたことが記されるなど、彦根の歴史において重要な事柄について記されている点も注目されます。「侍中由緒帳」は、藩士の履歴だけでなく、彦根藩の歴史を知る上で貴重な資料といえるのです。
 
 「侍中由緒帳」は当館展示室6にて展示しています。この秋は「侍中由緒帳」を通して、彦根藩士の足跡に触れ、江戸時代の歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

彦根城博物館学芸員・柴崎謙信

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