大きな画面に、いろいろな有機的な形が配置されて構成されている作品です。作品のタイトルは「オセアニア海」と「オセアニア空」。タイトルを意識してみると、確かに魚や海藻、鳥のような形を確認することができます。

作者のアンリ・マティスは1869年、フランス北部のカトー・カンブリッジで生まれました。92年から、神話や聖書を題材に幻想的な作品を描いた象徴主義の作家、ギュスターブ・モローを師として、パリの国立王立美術学校で絵画を学びます。当時のパリでは、すでに印象派がある程度の市民権を得ていました。マティスは印象派以後の新しい絵画表現を追求していく中で、ルネサンス以降の伝統であった写実主義、つまり目に見える現実を忠実に絵画にしようとすることから決別し、目に見えている色ではなく、感情や心情を表現する手段として色彩を使うようになります。その作品は、原色や補色を多用したものでした。
1905年にパリで開催された展覧会「サロン・ドートンヌ」には、マティスをはじめとしてこのように色彩を使う作家の作品が数多く出品されました。この展覧会を見た美術評論家が否定的に使用した「野獣(フォーヴ)の檻」という表現から、以後マティスのように芸術家の主観的な感覚を表現するための手段として色彩を使う潮流は、「フォーヴィスム」と呼ばれるようになります。
色彩に傾倒していたマティスは、色彩と形の関係を思考し続け、80歳に届こうかという1940年代に、切り紙絵という新たな技法に到達します。色紙という、いわば形のない色彩そのものから直接形を切り出す切り紙を、マティスは彫刻家が石や木から直に作品を削り出していくことになぞらえています。マティスにとって、切り紙絵はまさに色彩と形の完全な調和だったことがうかがえます。
最初は書籍のために始められた切り紙絵ですが、初めて切り紙絵で作られた大きな作品が「オセアニア海」と「オセアニア空」でした。登場する鳥や魚、海藻や珊瑚(さんご)などの形は、タヒチへの旅行の際に着想を得ています。マティスは、アパルトマンの食堂の壁にそれぞれの切り絵をピンで留めながら作品の構想を練り上げていきました。本作は単色のシルクスクリーンであり、色彩の魔術師とも言われたマティスの作品としては意外かもしれませんが、彼の画業におけるターニングポイントを示す重要な作品です。

「オセアニア海」は現在開催中のSMoAコレクション第2期「いろんなかたち」にて9月7日まで展示されています。また、「オセアニア空」は9月13日から11月30日まで開催予定の第3期「名品選」にて展示します。みなさまのご来館をお待ちしています。
<県立美術館主任学芸員・荒井保洋>
