イヌワシ舞う、誇るべき自然 米原市伊吹山文化資料館

幼鳥の剥製、大きさ実感して

 2020年、雄大な伊吹山の山麓(さんろく)に位置する市民手作りの資料館に新たな「米原市の宝」が加わりました。前年7月、伊吹山では十数年ぶりに巣立ったイヌワシの幼鳥が、ケガをしてうずくまっているところを保護されましたが、残念ながら死にました。米原市では、まちの豊かな自然を物語るシンボルであるこの幼鳥を剥製標本にし、資料館で展示することにしました。幼鳥といえども翼を広げると約180センチもあり、その大きさに驚きます。
 
  伊吹山の山頂から、はるかに望む白山や御嶽山を背景に空を舞うイヌワシ。その大きな羽は、飛ぶときにはほとんど動かすことはなく、いったん風をつかまえたら、羽を広げたまま空を縫うように飛んでいく姿はとても勇壮です。

イヌワシは、国の天然記念物であり、国内希少野生動植物種(国内で絶滅のおそれのある種)、レッドデータブック絶滅危惧ⅠB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種)などに指定され、法令で保護されています。
 
 現在、日本のイヌワシの推定生息数は、150~200ペアと単独個体を合わせた約500羽といわれています。かつて県内には10ペア程度が生息していましたが、鈴鹿の山々では、現在その生息が確認されていないようです。多くの生息地では、大規模開発、森林伐採、単一樹種による植林などにより、イヌワシの食べ物となるノウサギやヤマドリが減少し、環境汚染物質の影響などによって絶滅の危機に追いつめられています。

 伊吹山には一つがいのイヌワシが棲(す)んでいます。自然界の生態系のバランスは、さまざまな生物が生息してはじめて保たれます(生物多様性)。イヌワシは、伊吹山における食物連鎖の頂点に立ち、生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしています。いいかえるとイヌワシが生息できる伊吹山は豊かで生態系のバランスのとれた環境といえます。

 イヌワシは国民共有のかけがえのない生物であり、次世代に引き継いでいかなければならないすばらしい自然資産です。米原市にはイヌワシが舞う誇るべき自然があります。剥製を通じて米原の子供たちには故郷の誇りとして、来訪者の方には、伊吹山を中心とした雄大な自然を知り、親しんでいただきたいと思います。

 米原市を拠点に、国内のホッケーの最高峰・日本リーグに参戦する男子のクラブチーム「ブルースティックス滋賀」のエンブレムのモチーフはイヌワシです。イヌワシの強さ、気高さ。古来より人々の敬意と憧れの対象であったイヌワシが飛行する様は、スティックを巧みに操りピッチを疾走する選手たちのイメージと重なります。まさに、イヌワシは米原市のシンボルなのです。

米原市伊吹山文化資料館学芸員・高橋順之
https://www.zb.ztv.ne.jp/mt.ibuki-m/

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