日本で制作、唯一のレイピア 水口歴史民俗資料館

「ヨーロッパ以外で模倣」他に例無く
 甲賀市水口歴史民俗資料館は、東海道50番目の宿場町「水口宿」を主なテーマとし、水口のあゆみと暮らしを紹介する資料館として1984年に開館しました。今回は江戸時代から市内の神社に伝わっている十字形洋剣、通称「水口レイピア」をご紹介します。

 この長剣は、水口藩加藤家の藩祖である戦国大名加藤嘉明(1563~1631年)をまつる藤栄(ふじさか)神社に1830年、加藤家から奉納されました。水口藩は明治維新により廃藩となりましたが、神社とその社宝は地元で保存・継承され、この剣を含む社宝については、1987年から当資料館でお預かりしています。2013年に当市を訪れた小林公治氏(東京文化財研究所)にこの剣を見ていただいたことをきっかけに、国内外の研究者による調査研究へと拡がり、19年の国際博物館会議(ICOM)京都大会発表やマスコミで報道されたため、この剣をご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 23年には、当市学芸員ら10人の研究者による報告「伝世洋剣水口レイピアの謎に挑む」が中央公論美術出版より一般向け図書として刊行されています。また今春には京都国立博物館で開催された大阪・関西万博開催記念特別展「日本、美のるつぼ――異文化交流の軌跡」で対外交流の姿を示す遺品として展示されました。

 この水口レイピアが注目されるのは、17世紀前半にヨーロッパ人が使っていたレイピアという武器を模倣して、日本で制作されたものだということです。この時代は「大航海時代」と呼ばれますが、世界各地とのさまざまな交流が行われた時代でした。

 華麗なこの剣の柄(つか)は銅製で金鍍金(めっき)が施されています。特に双頭鷲(そうとうわし)が彫られた鐔(つば)の唐草文様により、これが17世紀第2四半期ごろの日本製であることを示しています。そして鞘(さや)は、日本刀の鞘と同じ黒漆塗です。鞘の金具には柄と同じ技法があるので、柄と鞘や鞘金具を日本の職人が作ったことがわかります。一方で、鍛冶(かじ)による鉄製刃部の両面には幾何学文様がありますが、その意味を見出すのは難しく、制作地は特定できていません。また、柄と剣はネジで結合されていますが、「ネジ」はこの時代に日本にもたらされた西洋技術の一つであり、日本の刀剣と大きく異なる特徴の一つです。

 しかし、長年の探索にも関わらず、こうした剣は知られていません。つまり、この剣は、ヨーロッパ以外で模倣された現存唯一の西洋剣です。きわめて高い価値を持つことから、24年3月に甲賀市の有形文化財に指定されました。

 この剣を保存するため、実物大模型を水口城資料館に常設展示しています。またかつて、藤栄神社の祭礼に合わせて社宝がお披露目されていたことにちなみ、10月12日に行われる藤栄神社の秋の祭礼の日を含む約1カ月間、水口歴史民俗資料館で毎年実物を展示しています。今年も10月23日までスポット展示「十字形洋剣――水口レイピア」を実施していますので、ぜひこの機会に直接ご覧ください。

甲賀市水口歴史民俗資料館主査・永井晃子

PAGETOP