昭和の日常生んだ筵織機 伊香立香の里史料館

必需品の「わら」使用 農具共進会で銅賞
 伊香立は、湖西地域の大都市堅田のさらに西側にあります。京都へ行くために、琵琶湖大橋から国道477号沿いに堅田を通り、途中へ向かう道すがら、伊香立を通る方も多いのではないでしょうか。伊香立を走っていると、遠くに比叡山地がそびえ立ち、近くには悠然と棚田が広がる景色を目にすることが多いでしょう。現在ではあまり見かけない、古き良き日本の原風景がそこには確かにあると感じます。

 その伊香立の中心地に、伊香立香の里史料館はあります。地域の暮らしを残し後世に伝えるための施設として、民家を再現するとともに、周辺の住民から集められた暮らしの道具を展示しています。展示品は、伊香立で使われていた農具や民具などが中心ですが、江戸時代に発見された竜骨(実際はナウマン象の骨)の精巧なレプリカや、伊香立にあった小学校の瓦や教科書などもあります。また、昔の小学校の教室を再現した部屋などもあり、昔の伊香立の暮らしをさまざまな角度から味わうことができるようになっています。

 その中で、特に紹介したいのは、筵織機(むしろおりばた)です。筵織機とは、その名のとおり、筵を織る手動の機械です。筵の原料には、い草や竹、わらなどがありましたが、伊香立地域ではもっぱらわらを使用していたようです。伊香立では牛による農耕が行われていましたが、牛舎の床にわらを敷き詰め牛のベッドにしたり、鞍(くら)や牛の蹄(ひづめ)に履かせる靴をわらで作ったりするなど、この地域ではわらが必需品でした。そのため、日常的に使用しているわらを原料に筵を織ったと考えられます。

 筵はさまざまな用途で用いられます。昼寝用の敷布団代わりにしたり、穀物を干したり、農作物をくるんで保護したりなどです。現在は、畳やビニールシートに取って代わられていますが、筵独特の良さがあり、今でも農家などで目にすることがあります。

 香の里史料館に展示している筵織機は遠藤式農具工作所が製作したものです。この工作所は、伊香立在住の遠藤金一氏が代表を務めていた会社です。遠藤金一氏は代々伊香立の農家でしたが、父金次郎氏の代より農機具の製造に携わっていました。金一氏は父の跡を継いで、筵織機を製造したのです。この筵織機は大変評判がよく、昭和3(1928)年に京都の岡崎で開かれた、昭和天皇の即位を記念して行われた、大礼記念京都大博覧会に出品され、見事褒状を与えられました。また、全国農具共進会でも銅賞を授与されています。

 この筵織機以外にも、香の里史料館には、俵織機などわらを使った織機が多く展示されています。先にも述べた通り、展示品のほとんどは伊香立の人々から集められた道具です。伊香立の人々にとって、「笑いなし」の生活ならぬ「わらなし」の生活は考えられなかったのではないでしょうか。

大津市歴史博物館学芸員・五十嵐正也

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