極めて希少な隼頭神像 MIHO MUSEUM 

古代エジプトの信仰心と技術力、伝え
 MIHO MUSEUMは、甲賀市信楽町の山間部に位置し、中国の古典「桃花源記」に描かれた理想郷をイメージして設計されました。1997年に開館した当館は、自然と調和した建設を目標として、建物の大半が地中に埋設されているため、周囲の景観を損ないません。世界的建築家I・M・ペイ氏が設計を手がけ、美術館棟へのアプローチには桜並木の小道や幻想的なトンネル、吊り橋が含まれています。館内は南北に伸び、南館は常設展示のエジプト、西アジア、南アジア、中国展示室からなり、北館では年3回の特別展を行っています。

 エジプト展示室の隼頭神像(じゅんとうしんぞう)は、エジプト新王国時代の第19王朝(紀元前1295年~前1213年)に制作された、極めて稀少な礼拝像の一つです。この像は隼(はやぶさ)の頭を持つホルス神を表現しているとみられ、全身が銀の無垢材で制作され、かつては金箔で覆われていました。髪にはラピスラズリ、目には水晶が象嵌(ぞうがん)され、エジプト神話における「骨は銀、肉は金、髪はラピスラズリ」という神の表現が忠実に再現されています。

 この像は古代エジプトの神殿内の最も奥にまつられ、限られた人々のみが崇拝することができる特別な存在であったと考えられています。1922年、ツタンカーメン王墓を発見したハワード・カーターもこの像を目にしており、彼の日記には「現存する数少ない本物の礼拝像」としてその価値が記されています。この像は、その美しいデザインと貴重な素材を通じて、古代エジプト人の神への信仰心の深さや、美術・技術の高さを現代に伝えています。

 本年の夏季展(12日~8月24日)は「伝説の漆匠佐野長寛――奇想と風雅の世界」と題し、江戸時代後期に京都で活躍した塗師(ぬし)、佐野長寛の特別展を開催します。当館は長寛の作品を9点所蔵しており、創立者が好み、会食などで実際に使用していたようです。その堅牢(けんろう)な髹漆(きゅうしつ)の技と優れたデザインの漆器類は、使って楽しいものだったことでしょう。

 今展の調査では、京都・室町通、新町通周辺の呉服商が長寛の作品を多く所蔵していたことがわかってきました。当時の富裕層の間でも人気であったようです。また、今展は長寛にスポットをあてる100年ぶりの展覧会となります。前回は1925(大正14)年に、恩賜京都博物館(現京都国立博物館)において長寛70年忌の法要と共に行われており、本年は節目の年でもあります。160件を超える資料に加え、ゆかりの地の映像や長寛の武勇伝も紹介し、彼の実像に迫ります。

 信楽の自然とペイ氏の建築に包まれながら、古代美術との出合いを体験し、佐野長寛の伝説に触れ、秀明自然農法の食材による食事や喫茶を愉(たの)しむ。そんな桃源郷での一日をぜひご堪能ください。

<MIHO MUSEUM 学芸員・辻上祐貴>

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