贈り物に真心、折り込んで 近江日野商人館

多種多様な折形、嫁入り道具にも

 近江商人発祥地・日野町の近江日野商人館の収蔵品には「折形(おりがた)」と呼ばれるものがあります。お中元やお歳暮をはじめ、物を贈答する機会は現代社会においても多くあります。少し改まった場合には贈答品を包装紙で包んだり、市販ののし紙やのし袋を使用したりする習慣がありますが、昔は贈答品に託した自分の真心の大きさを相手に伝えるために、複雑な折形を和紙で自作して、贈答品に添えて贈るという奥ゆかしい文化がありました。

 折形は、中世に公家や武家の礼法として始まり、江戸時代から庶民の世界へも広がったものです。贈る物の種類やその目的、相手、季節の違いなどに応じた多種多様の折形が作られており、日野地方では、これまでに400点余りの折形が見つかっています。その多くは日野商人関係の女性の間で伝えられてきたもので、花嫁修業の過程でお師匠さんから贈答時の社会常識として教え込まれたものですが、折形はうっかり開いてしまうと元に戻せない難しさがあることから、写真のように、お師匠さんが割り印をして元に戻せるようにして嫁入り道具として持たせる習慣も生まれました。

折形の世界にも流派があり、日野地方には小笠原流のものが多く、折形全体が真・行・草に分けられ、真は最も丁寧な折形で、相手への尊敬の心を最大に表す折形です。行は少しばかり緊張関係を持たなければならない目上や年上に対して使用されるもので、草はちょっとしたお裾分けなどに使用されてきました。

 相手への心配りを和紙で折り、包み、結び、贈答品に添えた先人の心遣いは、簡略化、合理化一辺倒の現代社会において、振り返ってみるべき価値があるのではないでしょうか。折り紙は折形が遊戯化したものですが、近江日野商人館では、折形の体験コーナーも設けています。日本の伝統的な和紙文化である折形の世界を体験してみてください。

近江日野商人館長・満田良順

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