滋賀県博物館協議会第1回研修事業 簡易報告

滋賀県博物館協議会第1回研修事業 簡易報告

A. タイトル:「美術館における作品貸借について」
      講師:相澤 邦彦 氏(兵庫県立美術館 保存・修復グループ学芸員)
B. 日時:平成30年11月19日(月) 13:30〜16:30
C. 会場:彦根城博物館
D. 参加者:19館27名
E.  概要:

 美術館や博物館にとって、展覧会の開催は重要な仕事の1つです。展覧会には、テーマに沿って様々な美術作品や貴重な資料が展示されていますが、多くの場合、各館の所蔵作品だけではなく、国内外の美術館・博物館からお借りした貴重な作品達も並んでいます。しかし、作品を動かすことは、多くの危険が伴います。たとえば移動による振動、いつもとは異なる展示環境が与えるストレスは、作品にとって少なくないダメージを与える可能性があるためです。そのため、作品を貸す館・借りる館の間で、しっかりと信頼関係を築くことはとても重要です。両者の信頼関係があってはじめて作品の貸借が行われ、ひいては多くのみなさんに全国・全世界の貴重な作品をご覧いただくことができます。
 今回は、こうした作品の貸借について、近現代美術作品の保存・修復を専門とされる兵庫県立美術館学芸員の相澤邦彦氏から様々なお話を伺いました。研修のひとつのポイントとなったのは「ファシリティー・レポート」です。これは、様々なデータを通じ、その館で安全に作品を展示できることを示した報告書のことです。借用の際は、館の平面図や建物の構造、組織体制や展覧会歴といった情報をファシリティー・レポートに記載し、相手の館に提出します。そこに書かれた情報、あるいは書かれていない情報の交換をすることで、お互いの信頼関係を築いていくのです。貸借時には、まずはファシリティー・レポートをきちんと見る/作成することが大切、という今回のお話に、参加者一同改めて目が覚める思いがしました。
 貸借時には、他にも多くのやり取りや準備が求められます。今回の研修では、作品の梱包、虫菌害対策、コンディション・チェック(作品の状態を確認し、記録すること)、展示室内の環境整備、そして近年益々深刻さを増す自然災害やテロ対策といった、貸借に関する一連の仕事と注意点についても講義をしていただきました。海外の美術館とのお仕事についてもご紹介してくださり、言語や文化の違いから生じる困難と、それを乗り越えて信頼関係を築きあげることの重要性を強く感じました。
 相澤さんの経験に基づいたお話はどれも引込まれるものばかりで、作品を守るために高い専門性を持って尽力されている姿には我が身を振り返って反省することばかりでした。作品を保存・展示するという博物館の大切な仕事についても、改めて考える場となりました。

(滋賀県立近代美術館 学芸員 渡辺亜由美)

  

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